8. 各種トレーニング

【安全講習・装置講習】
大学によっては、実験前に安全講習を受けなくてはいけません。米国では完全にe-learningに移行しているので、好きな時間に自分のPCで安全講習を受けられます。しかし、日本ではまだe-learningがあまり整備されていないようです。決められた時間に講習に参加する必要があります。講習も分野によって様々で、化学薬品、放射線・X線、極低温、工作、動物などあります。4~5月に多いので、実験に使いそうな講習は全て受けておきます。講習に丸一日費やすこともありますが、今年だけなのでガマンガマン。


【共用装置の利用】
若手研究者にとって、最も辛いのが研究資金です。近年、最先端研究を行うには、高額の大型装置が必要になってきており、野心に燃える若手研究者達を苦しめています。そこで貴重なのが共用装置です。文科省と京都大学が主体となって、全国に多くのオープンファシリティが作られています。ナノテクノロジー関連であればココ。最先端デバイスの加工から解析まで行えるのは、北大筑波エリア東大名古屋大京大阪大となります。近くの大学で新たにPIになった方は、外部であっても、この共用装置群を利用しない手はありません。例えば、学生や教員のオフィスは同志社大でも実験は京大で、という感じです。MITやハーバードなどの米国大学では、共用装置のみを使って最先端の成果を出している研究室が多々あります。同じように、旧帝大でなくても最先端研究ができるようになってきました。

米国のクリーンルームでは装置一台につき1時間数千円(例:バークレーのバイオセンター)かかり、年間500万円くらいで頭打ちする、パケット定額のようなシステムになっています。大学によって、夜17時以降は安いとか、学生は半額とか、様々な条件がついていますが、それでも学生一人当たり年間300万円はかかります。一方、日本の多くの共用装置は1時間1000円程度と利用料金が一桁近く安いので、学生一人当たり年間100万円もあれば十分です。共用のシミュレーションなども使えば50万円でも十分でしょう(実験系ラボでも、シミュレーションソフトがある程度使えると、実験結果の少ない若手でも研究費応募書類の説得力を強化させることができます)。つまり、若手研究者の研究費(若手:年100万円程度)でも、学生二人分は最先端研究に携わさせれるということです。学生が10人近くいる(日本の准教授クラス)場合は、基盤Bは欲しいですね。

共用装置をうまく利用するには、学生やポスドクの間に多くの実験装置に触れておくことです。何が必要かが分かるからです。PIになったときに、自分のラボの装置は頻繁に使うものだけに絞って購入すれば、低コストでラボ運営できます。なにより、自分たちの装置の保守管理をしなくてよいので、教育や研究に専念できます。使用経験のない専門知識が必要な装置でも、スタッフが代行してくれます。価格は倍くらいになりますが、それでも最新装置を利用できることを考えれば格安です。起業する方や中小企業の方もどんどん利用すべきです。このような共用装置の環境は、日本でも若手研究者にとって十分整ってきたと思います。

共用施設利用のデメリットは、自分用にカスタマイズ・改良しにくいことです。キーとなる装置が買えない時は、学内の教授達にメールを回したり、学会などで中古装置を譲ってもらえないか、聞きまくります。最先端装置は、自作でも中古でもかなり高くつくので。また、学生は慣れるまで練習が必要なので、限られた利用時間と予算では、成果が出始めるまでに期間を要します。深夜土日問わず装置をいじり倒し、自分たちで修理・改良できるのが講座制のメリットでしょう。

米国と比べた日本の共用装置の課題は、スタッフの数が少ないことです。トレーニング予約が難しく、装置自体も使いこなせていない場合があります。利用時間を紙媒体で管理しているところでは、安全講習をe-learningにすれば人件費をもっと削減できると思います。米国では利用時間時のみPCモニター電源が入る、予約時間=利用時間とみなす、という仕組みで管理しています。米国はペナルティが大好きなので、間違った使い方をしている人を報告すれば利用料金が割り引かれるとか、利用条件や時間を記入し忘れたら倍の課金がされるとか、大学によって様々な工夫がされています。予約したけど使わなかったとしても、課金されることがあります(個人的には、日本の性善説のシステムの方が好きです)。あと、利用者が少なく、利用されていない装置がまだまだ多いです。この辺りを改善できれば、現在の平日9-17時より更に長時間の運営や、文科省に頼らない自立した運営が可能になると思います。


【共用装置の利用手続きの例(産総研NPFの場合)】
1.Webでユーザー登録をクリック
 →登録内容を記入後、アカウントとパスワードがメールで送られてくる
 →同サイトでログイン後、ユーザー情報を入力
2.ユーザー登録後、ログイン画面で支援申請をクリック・記入
 →技術相談内容を入力
 →申請後、面談の予約案内がメールで来る
3.産総研に訪問して技術相談(使いたい装置、使う用途などを話す)
4.数日の審査後、内諾通知書と利用申込書(PDF)がメールで送られてくる
 →利用申込書と履歴書を記入&押印しメールで提出
 →数日後、回答書が郵送されてくる
5.同サイトにログインして、機器利用申請をクリック・記入
6.安全ガイダンスの予約案内がメールで送られる
 →産総研に訪問し、半日使って安全ガイダンスを受ける
7.同サイトにログインして、トレーニングをクリック・記入
 →装置トレーニングの予約案内が装置毎にメールで送られてくる
 →産総研に訪問して装置トレーニング終了後、装置予約が可能になる
8.同サイトでログインして装置予約をし、実験開始!

という流れで、最初の登録から1か月くらいかかります。米国なども共用施設は、使えるまでに同様の期間を要します。自分で使えるようになるまでに産総研に訪問する必要が何度かあるので、施設から遠いと何かと不便です。3をskype、6をe-learningにし、6内の設備案内を7にくっつけてもらえると、1度の訪問で済むかと思いますが、外部に公開している割には、これでも結構簡略されている方なので、やはり、お近くのオープンファシリティを使うのがいいと思います。もちろん、大学の設備の方がもっと簡略的で使い勝手がいいです(※設備がいいとは限らない)。

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